メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー

本日はクリスマス・イヴですね。あっという間に2021年が終わろうとしています。


前回のピアニスト紹介、キース・ジャレットのアルバム「メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー」のお話です。


1996年秋、それまで圧倒的な人気で、ジャズ音楽界のトップを走り続けていたキース・ジャレットは、突然病のためにすべての活動を休止します。

その病は、「慢性疲労症候群」。立って歩く事も困難で、関節の痛みなど、ピアニストにとってはとても辛い症状の病気。現代の医療でも効果的な治療法は見つかっていません。


「ピアノの蓋を開ける力もなく、楽器さえ見ることができなかった。音楽を聴けばそれだけでエネルギーを取られる。まるで体を乗っ取られたように、ずっと椅子に座ったまま、ただ庭の芝生を眺める生活だった、、」


そんなキース・ジャレットを支えたのは、妻のローズでした。彼女は毎日彼のために献身的に看病します。そんな彼女のために、なんとか感謝の気持ちを示したい。こうして生まれたのが「メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー」です。

キース・ジャレットは、自宅のスタジオにこもり妻のローズのために録音をし始めます。病のために長時間はピアノが弾けず、何週間も中断することもしばしば。それでも少しずつ少しずつ演奏を録りためていきます。

そして1998年クリスマスの日、キース・ジャレットはリボンをかけた録音テープを、妻のローズに手渡します。

タイトルの「You」は、妻のローズのことでした。


発売を目的として録音されたわけではないこのアルバムは、1曲1曲が妻への感謝のため、激しめの曲やアップテンポの曲は一切ありません。

そのタイトルのように、寝る前の静かな時間にひとりで聴く、そんなアルバムです。



そして現在76歳のキース・ジャレットは、2度目の脳卒中のため半身不随になっています。演奏活動への復帰は難しいと言われていますが、奇跡のカムバックを信じています。