今回紹介するピアニストは、前回のキース・ジャレットとは真逆のタイプのピアニスト、ミケランジェリです。
【アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ】(1920~1995)
イタリアのピアニストであるミケランジェリの演奏の特徴を一言で表すと、「完璧」でしょう。
強面で、どこか近寄り難いオーラを放ち、演奏時は体を揺らさず、まるで統率をとる指揮官のようです。
そして、彼を「完璧主義」というイメージにしたのは、おそらくは頻繁に公演をキャンセルするその行動ではないでしょうか。
本人の体調でのキャンセルなんて朝めし前で、ピアノのコンディション、さらには指揮者との意見の相違からもキャンセルをしてしまいます。ここまでくると、なかなかのわがままっ子のようにも感じますが、全ては自分の中にある完璧な音楽を提供するため。
日本への来日公演は計4回ありましたが、全てのスケジュール通りに行えたのはたったの1回だけでした。現代でこのような事をしてしまうと、どんなに優れたピアニストでも一瞬で仕事を失ってしまいそうです。。当時はそれだけ替えのきかない唯一無二の存在だったのでしょう。
ミケランジェリの音へのこだわり、それはペダルの調節にもあらわれます。
ミケランジェリはペダルを踏むか踏まないかではなく、どこまで踏むかを調節するのです。ペダルを踏み込む深さが何段階も存在し、そこから色々な音色を生み出します。
私は高校生まではなんとなく、ペダルは音を引き伸ばしたり、スケールを増す効果に用いたり、音を弱くしたりと考えていましたが、彼の演奏に出会ってからは音色を変えることもできることに気付かされました。
その演奏スタイルからも、音楽で人をワクワクさせるというより、芸術の可能性を教えてくれる師範代のようなピアニストです。ですので、特に音楽の道に進んでいく学生におすすめしたいピアニストです。私もその職人技を、まるで社会科見学でメモを取る学生のように夢中で聴いていました。
【ミケランジェリのおすすめ作品】
まず、作曲家の中で得意とするのは、ショパンとドビュッシーでしょう。ショパンに関しては、You Tubeでたくさん見ることができます。
私が特におすすめしたいのは、ドビュッシーです。大学生の頃、ミケランジェリが弾くドビュッシーの「前奏曲集 第1巻」をどれほど聴いたことか、、まるで魔術にかかったように毎日のように聴いていました。
もうひとつ紹介したいのは、ラヴェルの「ピアノ協奏曲 ト長調」です。特に第2楽章の冒頭ソロパートは、奇跡です。フレージング、音色の変化、どれを取っても素晴らしく、それでいてとても自然なのです。その後に続くオーケストラとの一体感も大変心地良いです。まるで大自然の中にある湖のほとりを散歩しているかのような気分にさせてくれます。時間のない方は第2楽章だけでも是非!(1,3楽章も語りだすと終わらないと思うのでこの辺で、、笑)
◆ドビュッシー/ 前奏曲集 第1巻
(第8曲に、有名な「亜麻色の髪の乙女」が入っている曲集です)
◆ラヴェル/ ピアノ協奏曲 ト長調
その他に、同じイタリア人であるスカルラッティの作品でも非常に素晴らしい演奏を聴かせてくれます。時間のある方はそちらも聴いてみてください。