ピアニスト紹介 第6回 ②

【ビル・エヴァンスのおすすめ作品】


◆ポートレイト・イン・ジャズ(1959)

伝説のピアノ・トリオの記念すべきデビュー作です。

まずビル・エヴァンスといったらなんと言ってもトリオ編成。ピアノ、ベース、ドラムの編成で、ピアノの主人公感もあり、それぞれのソロも堪能できます。とてもバランスのいい編成ですね。

メンバーは、ビル・エヴァンス(p)、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)です。

アルバムの内容も、「枯葉」や「いつか王子様が」といったジャズのスタンダードナンバーを楽しむことができます。


◆ワルツ・フォー・デビー(1961)

おそらくビル・エヴァンスのアルバムで一番有名になったアルバムでしょう。

タイトルの「ワルツ・フォー・デビー」が2トラック目に入っていて、これは彼の作曲したオリジナル曲です。当時2歳の姪であるデビーに捧げられた曲で、愛らしい曲調のワルツです。

このアルバムでは他に「マイ・フーリッシュ・ハート」、「マイ・ロマンス」といったスタンダードナンバーも楽しむことができます。

ちなみに私はビル・エヴァンスの「マイ・ロマンス」が大好きです。もちろん楽曲も最高なのですが、後にアレンジや曲の雰囲気がどんどん変わっていくんですよね。同じ曲でも時代によって全く印象の違うものを楽しめるのがジャズの醍醐味です。


このアルバムの収録の後に、ビル・エヴァンスにとって悲しい出来事が起こります。ベースのスコット・ラファロが交通事故で25歳の若さで他界してしまいます。


◆ウィズ・シンフォニー・オーケストラ(1965)

ビル・エヴァンスが弾くクラシックを楽しむことができる作品で、色々なクラシック作曲家が登場します。

オーケストラとの共演作であり、大変ムードのあるこのアルバムは夜寝る前に静かに聴くのがおすすめです。

ビル・エヴァンスは6歳からピアノを、後にヴァイオリンやフルートも学び、クラシック音楽の教養を身につけました。ジャズにクラシック音楽の要素を持ち込んだピアニストとしては、キース・ジャレットと似たところがありますね。ビル・エヴァンスはそのパイオニアかもしれません。


◆アローン(1968)

ビル・エヴァンスによるピアノソロのアルバムです。

実はこれ以前にも「自己との対話」というシリーズで多重録音でのピアノ作品はあったのですが、こちらは純粋なピアノソロによる作品です。

どの曲も素晴らしく、このアルバムも夜にぴったりな雰囲気があります。


◆ザ・ビル・エヴァンス・アルバム(1971)

私がビル・エヴァンスにハマるきっかけとなったアルバムです。

「ワルツ・フォー・デビー」が彼の代名詞であるというのだけは知っていたので、一応その曲が入っているのも確認して買ったのですが、まずこのアルバム自体がかなりの意欲作なんですよね。それは、アコースティックピアノ(いわゆる普通の)とエレクトリックピアノ(電子)を併用する形で録音に臨んでいるのです。

その有名曲である「ワルツ・フォー・デビー」でも最初の2分の前奏はアコースティックピアノで、トリオになってからはいきなりエレクトリックピアノに変わります。

2つ目に紹介したアルバムの「ワルツ・フォー・デビー」と聴き比べをしてみると面白いですよ。


もうひとつのこのアルバムの特徴は、全曲通して完全オリジナル曲というところです。

正直オリジナル曲を作曲しなくても良いくらいにアレンジャーとしての才能がズバ抜けているのですが、彼が名作曲家でもあることを知ることのできるアルバムとなっています。


◆パリ・コンサート・エディション1(1979)

最後は私が一番好きでよく聴くアルバムです。

ビル・エヴァンス晩年の、ラストトリオによる伝説のパリ・コンサートのアルバム。

パリ・コンサートのアルバムはエディション1と2の2枚あるのですが、私は断然こちらです。理由はもちろん「マイ・ロマンス」が入っているから。

是非皆さんに試して欲しいことがあります。アルバム「ワルツ・フォー・デビー」、「Live in Tokyo」、「パリ・コンサート・エディション1」と順番に「マイ・ロマンス」を聴いて欲しいのです(ちなみに全てトラック4)。こんなにも同じ曲で変化していくのかときっとジャズの魅力にハマってしまうことでしょう。

段々と長くお洒落になる即興前奏、そしてテンポも晩年になるにつれどんどん加速していきます。

また、その「マイ・ロマンス」前後(3&5)のピアノソロも最高の一言。


死の前年であるこの頃は、ドラッグ依存と、自身の病、兄の自殺と心身ともにボロボロだったのですが、ピアノを弾くことのみはできるという状態だったそうです。


ビル・エヴァンスが晩年に残した最高に美しいアルバムです。